着物を日常着にする男性はもっと増えて良いと思う。一年間ほぼ毎日着用してみた結果、強くそう思う。むしろ、なぜ日本人男性が着物を着る機会がここまで減ってしまったのか気になる。
1年以上ほぼ毎日着てみた経験を残しておこうと思う。日常的に着ている人はあまり多くないので、実際に体験してみたことが誰かの参考になれば嬉しい。
毎日着るようになったきっかけ
僕は学生時代に繊研新聞を講読したり、東京コレクションを見にいったり、GAPでバイトをしていたりしたくらいに、洋服が好きだった。ファッションのビジネスをやろうと本気で考えていた時期もあった。高校生のころジャージと制服しか着ていなかった反動だった。
服に稼いだお金の大半を注ぎ込む時期を経て、白Tシャツにジーンズくらいにシンプルな服装でかっこいい人が一番かっこいいだろうという境地に達した。そうなると服は重要な要素ではないので、それ以降はほとんど格好を気にしなくなった。
そんな中、しばらくはファミマで売ってるTシャツを中心に着ていたのだけど、どうせ何でも良いなら和装も面白そうだと思い、近所の呉服屋で長着を一着誂えてみたり、寝間着に浴衣を着てみたりしていた。毎日着用するようになったのは、ケニアに行ってアイデンティティが固まったことだったように思う。
ケニアで産まれてから転々といろんな国で育てられてきたけど、自分の中では「ケニア生まれの日本人」と自分のことを語ることが一番多い。住んだ記憶もないのに、なぜかケニアに依りどころを持っていた。2018年に26年振りにケニアを訪れたとき、自分の中のエセケニア人アイデンティティが大きく崩れた。他の人からしたら明らかなことだったのだろうけど、街、生活、ことば、どれをとっても自分はケニア人ではないということが身をもってやっと理解できた。
モラトリアムから一歩進み自分が日本人であり、日本人としてどうケニアと関わるべきかということを常に考えていくのがこれからは大事と感じたので、毎日和装すれば、それを忘れることはないだろうと思い毎日着ることを決意した。
だいたい良いことばかりな着物生活
和装していて、よかったことがたくさんある。顔を覚えてもらえたり(正確には顔は覚えられていない)、話のきっかけになったり、服で悩まなくなったりと割と良いことがたくさんある。よくなかったこともあるが、どちらかというと良かったことのほうがたくさんあった。
まずなにより、覚えてもらえる。少し飛び道具な感は否めないが、名刺を配るよりよっぽど覚えてもらうことに貢献していると思う。はじめましての人とも話のきっかけにもなるので、緊張をほぐした会話もしやすい。
服で悩むこともなくなった。誰とも競争していない。トレンドに振り回されることもない。世間のどのブランドのなになにだ、とかその類の会話は無関係になる。ただ、着物でも生地の産地などでも格付けはあり、そういったところで競争している人たちもいるようだ。お茶会に出席するでもなく、一人で勝手に着ているだけの場合は特に関係がない。中古やAmazonで買えるもので十分満足している。
あと、これは最初から想定はしていなかったもので着物について調べる過程で日本の文化に以前に増して興味がでるようになった。「着物きているのに日本について何も知らないのは恥ずかしい」という感情のような気もするし、年なのかもしれない。とにかく昔より興味は沸くようになった気がしている。
不満もあるにはあるが大したものでもない
良いこともある一方で、全く不満がないわけではない。人並みに着物が不便と言われることは体験したように思う。
メンテは正直大変だった。着物が悪いわけではなく、正絹が綿や化繊と異なるだけではある。正絹の着物も自分で風呂場を利用して洗い、管理していた。できなくはないが、洗濯機につっこんでおけば良いわけではないので、Tシャツと比べたらそれなりに面倒ではある。一方で、スーツも洗濯機につっこめるものではないことを考えると、まあそんなものかというふうにも思えてくる。
夏場は汗をよくかくし着物を洗いたい気持ちによくなったので、化繊の長着を買い足した。これは正解だったと思う。気になったらすぐに洗濯機で洗えるし、言われるほど着心地が悪いと感じることもなかった。
後は特に仕事を普通にしようとすると不審者と思われることがある。一部上場企業に打ち合わせに行ったときは、警備員に止められた。自分が警備員だったとしても、きっと止めたであろうから彼を責めることはできない。
高い、大変など多くのことを誤解していた
自分はだいたい 1万円 ~ 3万円くらいでだいたいの着物を入手した。中古で買ったから安かったわけだけど、スーツと同じくらいの値段だと考えれば、たいして高くはないと思えた。もちろん、高いものはいくらでも高い。
着付けに関しては、女性は大変なのかもしれないけど男は特に大変でもない。銭湯に友達と行っても自分のほうが早く着替えが終わることもある。慣れるまでは多少時間はかかったけど、慣れてからはそこでストレスを感じることは無くなった。年一で着物を20歳から80歳まで着る人は人生で60回しか着ないわけだけども、自分は360日近く着たわけだからそれなりになれた。
男着物の着付けに関してはほとんど道具はいらないのだけど、衿留めに関しては便利だと思った。着崩れに関しては、これだけあれば目立つ着崩れはほとんどなくなった。腰紐は自分は利用していないけど、特に問題はない。 https://www.amazon.co.jp/dp/B00ST9SKEM/ だらしなく見えないので、おすすめである。
要するに良いことのほうが多かったし、男着物はおすすめである。